小出裕章氏の講演を聴いてのまとめ

予告 - きりなの日記にて宣言した通り、
過去に、何度かブログに考察している原子力の事について、改めて考えをまとめ直し、今後、どのようにあるべきか。考える材料としたい。
(これは、2/8日(日)に名古屋で行われた小出裕章さんの講演会およびその講演会のDVDを観ながら、自分の考えをまとめなおしたものです)

原理は単なる湯沸し器

小出さんの講演の冒頭で、このように語られた。「原子力発電と言うのは、何やら複雑な高度なことをやって発電しているように思われるかもしれませんが、やっていることは単純です。お湯を沸かして、蒸気でタービンを回して発電する、これだけです」と。

そう、単純な話だ。このお湯を沸かす仕組みが、火なら火力発電(石油、石炭、天然ガスなど)、火山活動による地熱を使えば地熱発電だ。タービンを回すのには、蒸気じゃなくても、風(風力発電)、水(水力発電、潮力発電)、直接エネルギーを電気に変換する(太陽光発電燃料電池)などがある。


原子力発電が厄介なのは、燃やす燃料が強い毒性を持つこと、燃やしたあとの灰*1が、もっと強い毒性を持ち、安全な処分法、保管方がないという事実である。

現在のところ、人為的には処分する方法が確立しておらず、自然に崩壊(放射性物質は、半減期と云う期間が過ぎると、全体の量が半分になるという性質がある)するのを待つしかない。

しかし、その半減期が、プルトニウム*2で2万4千年、セシウム*3が30年となっており、人間の寿命で考えるなら、「生きている間には、毒性は消えない」という話になる。

では、地中に埋めておくという話にもなるし、実際にフィンランドオンカロ処分場等、10万年埋設することを前提とした施設も作られてはいる。

では、日本にも同様の施設を作れという話になるが、実際には厳密な条件を満たさなくてはならず、日本列島にはその条件を満たすような場所はない。なにしろ、10万年前に日本列島は無いのだ。所詮は浮き沈みの激しい島国なのである、そんな悠久の時を超えて不変な大地など、この国の国土には存在しない。

海洋投棄は、ロンドン条約ロンドン条約 (1972年) - Wikipedia で明確に禁止されており、採用できない。

つまり、現状では手詰まりであり、使用済み核燃料は、行き場がない。
控えめに言って、最終的な処分法が確立するまでは、原子力発電所を稼働させることは無責任と言えよう。

日本には現在、次の箇所に原子力発電所がある、すなわち

また、建設予定の発電所として

  • 大間

事故を起こしてから、再稼働が凍結されている高速増殖炉実証炉

がある。
このうち、玄海および大間はプルトニウムを積極的に燃やすためのMOX燃料を利用する炉だが、MOX燃料(プルトニウムウランに混ぜて使うタイプの燃料)は従来型の軽水炉での使用済み燃料の場内冷却期間の10数年〜数十年に比べて、はるかに長く、場内保存が数百年(500年〜800年?)と言うことのようである。

こんな長期に渡って、最終処分に移行しなければならない。

どなたが、読者の中に、鎌倉時代に将軍が約束したなにかを覚えていて、今実行しなければならないと訴える人がいるだろうか? また、訴えられたとして、それを実行しようと責任をもって受理する人がいるだろか?
荒唐無稽なことだと思うだろう。現状のまま、原子力発電を稼働させるのはこのようなことなのだ。

原子力が無ければ電力が足りなくなるという議論がある。
また、原子力は安いという議論がある。

これはいずれも、誤り、または詭弁だ。

現在、原子力発電が安いのは、電力会社にとってというだけの話で、実際には国からの補助金が発生しているのであり、その補助金は結局は私たちの税金だ。つまり、電気料金とは別に税金で埋めているが、その分を姑息にも原子力発電が安いという議論の中には計算されていないのだ。
また、廃炉については、決定しても、廃炉の方法は今から考える状態だ(参照美浜発電所1、2号機の廃炉決定にかかる福井県への報告について|2015|プレスリリース|企業情報|関西電力 )

つまり、今後かかる現状知らずの廃炉作業は、これからの電気代にのしかかってくる。かつての「安い電力」とやらの生み出した結果だ。


さて、そんな原子力発電所以外の発電所を作らない状況を続けて、原子力発電所を動かさない限り電力が足りないと言うなら、原子力発電所以外の発電所を作るべきなのだ。
実際には、現状で足りているし(停電しましたか?)、日本には少なくとも地熱資源がふんだんにあるから、これを利用する努力なしに、電力が足りないというのはおかしな話だからだ。

実際には、地熱発電を進めるには、自然公園法を改正し、国立公園内に地熱発電所を(景観保護に注意を払いつつ)建設する必要があるだろうと思われる。

しかしながら、日本は世界第3位の地熱大国であり、*4これを活用しないで置くのは、国土に対して大変不誠実な施策と言えるだろう。

発電に必要な資源はある。原子力発電に代わるベース電力になるのだ。

一度、それでも原発が必要なのか、考えてみてほしいと思います。

*1:比喩表現です

*2:プルトニウム239、長崎型原爆の材料

*3:セシウム137

*4:JOGMEC地熱資源情報